「アトミック・カフェ」との邂逅
渋谷のユーロスペースで上映されている『アトミック・カフェ』を見てきました。実はこの映画に出会ったのはもう10年以上も前のこと。大阪にいた頃、テレビの深夜映画を偶然見て、しかもたまたまビデオに録画。あまりの衝撃に、それ以来自分にとって最も大切な作品のひとつであり続けました。では、なぜこの映画にそれほど惹かれたのか? 考えてみるに、反核映画として優れているのはもちろんですが、ここには自分の感性に訴えかけるアイテムが幾つも存在しているからでしょう。
まずは40年代〜50年代当時のアメリカン・ウェイ・オブ・ライフが垣間見えること。ファッションやインテリア、流線型のクーペに広い庭、オーブンで作るおいしそうな料理、クラシカルでモダンなテレビやラジオの意匠などなどといったドリーミィなアメリカ的アイテムの数々に見入ってしまいます(それが、映画そのものブラックとも言えるテーマをさらに恐ろしくしているのでしょう)。当時の珍妙なポップスが数多く流れるのも聴き所ですし、初期カラーフィルムの色彩感にもグッと来てしまいます。
一方で、キノコ雲の不吉で禍々しくもぞっとするほど美しい光景。砂漠での実戦訓練で、立ち上るキノコ雲に向かって多くの兵士が(放射性物質の恐ろしさを知らされないまま)歩いて行く光景はとてもショッキングなものです(これについてはキノコ雲の姿を集めた著名な写真集、美術出版社刊「アトムの時代」をぜひご覧いただきたいところ)。さらには、当時のプロパガンダニュース映画の美術面や手法は、この手のマッシブな映像表現が好きな私にとってまさにド真ん中。しかしまぁ、この冷戦下のプロパガンダの何と脳天気で恐ろしいこと・・・・・・。もちろん、恐ろしくアイロニカルで、現在の感覚からするとエレガンスすら感じる映画自体の構成も素晴らしく、あの「Dr.Strangelove」を思い起こすのは私だけではないでしょう。何と言っても、新たな素材や、ナレーションを一切追加せず、過去のニュース映像からのサンプリングのみで87分間を作り上げた手法には感服する他ありません。本当に久しぶりの邂逅でしたが、この2004年に見てもその衝撃は変わりませんでした。いや、メディアの向こう側にあるものがより見えにくくなっている今だからこそ、評価されるべき作品ではないでしょうか。
で、今回うれしかったのはこの公開の後、めでたくDVD-Videoでリリースされること。アマゾンで発見した時はうれしくて会社のデスクで「うわっ」と声を上げてしまい、即刻クリックしてしまいました。話が脱線しますが、その時一緒に注文してしまったのがセルゲイ・パラジャーノフ監督の『ざくろの色~サヤト=ノヴァ~THE COLOR OF POMEGRANATES』。恐らく、史上最もトリップ感のある映像作品の1つでしょう。これまた当時、今や伝説の「パラジャーノフ祭り」で『アシク・ケリブ』と2本立てで見て以来の再会となります。まさかDVD化されるとは思っていなかったのでうれしくてマジ泣きそう。うーん、この2本がそろって自宅で見られるなんて、まさに夢のようです。
そうそう、脱線ついでにもうひとつ。『アトミック・カフェ』上映前の予告編コーナーで『変身』(もちろん、フランツ・カフカのあれです)をやっていたんですが、これがまた凄そう。やっぱりユーロスペースっていい映画たくさんやってるなぁ〜。
@ふなふな
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